Toscana - トスカーナ-
- アグリトゥーリズモ・イル・リーゴの仲間達
- カパルツォ葡萄園入り口の糸杉のアプローチ
- フィレンツェのシンボル、サンタ・マリア・デル・フィオーレ教会を望む
- ルッカ郊外のアグリトゥーリズモ・マイオンキの葡萄畑
イタリア半島の中部に位置し、日本では最も有名で人気のある州「トスカーナ」は、中世を今に残す数々の美しい都市、自然と人が織り成す豊かな田園風景、微気候と大地が生み出す銘醸ワインと、代々マンマに受け継がれた伝統の田舎料理で、世界中の人々をも魅了し愛され続けている憧れの国。
フランス料理の基礎が、中世のトスカーナ貴族・メディチ家によってもたらされた話はあまりに有名ですが、現在のトスカーナにメディチのメニューを見つけることは殆どできません。
さらに残念な事に、伝統的な家庭料理も半ば忘れ去られつつあり、進みすぎた観光化の煽りで、幾つかの特徴的な郷土料理だけが、極端にクローズアップされる傾向にあります。しかし、豊かな素材をふんだんに用いた素朴な田舎料理は何を食べてもしみじみ旨く、例え初めて出会った味だとしても、「おふくろの味」のようにホッとさせてくれるものがあります。
アンティパストはいわゆる「前菜」というよりも「おつまみ」としての認識が強く、人々は食事の際に通常前菜を摂らず、スープからスタートしメインディッシュを食べる2皿料理の傾向にあります。そのおつまみには、プロシュット(生ハム)やサラミ、レバーペーストのクロスティーニ(トースト)などが必要にして十分なメニューで、食事前にオーダーして、食前酒と共に皆で突っつくこともあります。
トスカーナにはパスタの種類が少なく、1品目の料理の代表は「リボッリータ」という冬野菜のパン粥や、在り合わせ野菜のスープに卵を落とし半熟で供する「アックア・コッタ」です。豆っ食いの異名をとるトスカーナ人達は、種類の違う幾つかのインゲン豆を日常の食生活に大いに取り入れ、スープ素材としても欠く事ができません。
沿岸部を除きメインとなる2皿目の料理は圧倒的に肉料理ばかりで、魚は乾燥塩鱈を水でもどしトマトで煮込んだバッカラ以外に乏しく、近年の冷蔵と流通の発達のおかげで生魚も流通するようになったものの、調理技術・技法共単調で面白味にかけます。
対して数々の豚肉料理、地鶏、ウサギなど豊かな肉料理の数々、そしてフィレンツェ風ビステッカ(ビーフステーキ)は誰もが驚く圧巻の大きさ、1枚最低でも1.2kgの肉塊を炭火でレアーに焼いた古代種キャニーナ牛の名物ステーキ。
また、冬には野ウサギ、猪、鹿などカッチャジョーネ(野生鳥獣類)や、タルトゥフォ・ビアンコ(白トリュフ)も採れます。
素晴らしい素材と優良な食堂を持つ半面、観光客相手の店も相当な数にのぼり、行き当たりばったりで優良な食堂に出会えたなら上々の幸運と言っていいでしょう。
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file No.10001: フィレンツェ(Firenze)
フィレンツェの美しい景観。
どこを取っても絵になるフィレンツェ市街。
サンタ・マリア・デル・フィオーレ教会(ドゥオーモ)、ポンテ・ヴェッキオ、ウフィッツィ美術館の他にもフィレンツェにはいいところがたくさんある。
残念ながら、大忙し、大所帯のツアー観光では紹介されることは無い。
限られた時間の中で全ての名所旧跡を訪ねたい気持ちは分るが、無理なスケジュールである事もまた分っているはず。
在伊中の日本人がよく言う「イタリア全州制覇!」も、どれほどの意義があるのか疑問だ。
全州廻るのは結構だが、通り過ぎただけで一体何が分るのだろう?
「他人に自慢するために”行った″という事実を作っただけではないか」と感じてしまうのは、ボクが斜(ハス)に構えたひねくれ者だからだろうか?
だってそんな人に限って日本の事は何も知らないし、全県制覇どころか行ってない県の方が多かったりする。
じっくり踏み止まって、その土地の「人」と話して、飲んで、食べて分かり合えるのではないだろうか。
file No.10003: アグリトゥーリズモ・マイオンキ(Agriturismo Maionchi)
イタリアには収益の低い農家を救済する為の政策として、農業以外に観光を目的とした宿泊施設を運営し収益の一助にする為の民宿「アグリトゥーリズモ」がある。
顧客はアグリトゥーリズモを通して田舎体験し、家庭的な雰囲気の中、農家の人々や他の顧客と共に同じ食卓を囲み、素朴な田舎料理を味わい共に語り合うことで、都市や観光地のホテルとは違った「味のある」滞在を楽しむ事ができる。
イタリア人は特に中南部の人ほど、初対面の他人に話しかけることに何の躊躇もない。はずかしがり屋の日本人からすると、とてもとても初対面の会話とは思えないほど、話しはあっという間に盛り上がってゆくが、多くの場合アグリトゥーリズモの食事は、一同に大テーブルを囲んで同じ料理を食べるので、回りに座っている人たちと自然に連帯感が生まれやすいのかも知れない。
file No.10007: リストランテ アルベルガッチョ(Ristorante Albergaccio)
フィレンツェの南、中央トスカーナのカステッリーナ・イン・キャンティ Castellina in Chiantiにあるリストランテ「アルベルガッチョ Albergaccio」。
一帯は優良なキャンティ・クラッシコの生産地。
なだらかな丘陵地帯に緑深い森が続き、陽当たりの良い斜面には葡萄園が広がる。
美しいイタリアの中でも最も美しい風景の一つ。 続きを読む
file No.10013: アグリトゥーリズモ イル・リーゴ(Agriturismo Il Rigo)
南トスカーナ、モンタルチーノ近くのサン・クィリコ・デッロルチャで宿泊したアグリトゥーリズモ「イル・リーゴ」。舗装路をはずれ凸凹道を車で十数分ほど行った小高い丘の上に一軒だけポツンと建っている。
車を運転していると雉(キジ)は飛び出し、羊の群れに出くわすなどなかなか楽しい。
file No.10014: モンテプルチアーノ(Montepulciano)
シエナの南東モンテプルチアーノ。
中世にはやはりフィレンツェとシエナの領土争いに巻き込まれた山の上の美しい街。
なんと言っても「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ(モンテプルチアーノの高貴なワイン)」が有名だが、このワイン近年急速に品質が向上し、その名に恥じぬ実力を身につけた幾つかの生産者がいるものの、
長い間名前ばかりで大したワインではないとのレッテルを貼られ続けてきた。
ワイン法の整備も質の悪い生産者を駆逐し、優秀な生産者は上質なキャンティ・クラッシコやブルネッロ・ディ・モンタルチーノに肩を並べるものもある。
葡萄品種はサンジョヴェーゼの亜種であるプルニューロ・ジェンティーレで、サンジョヴェーゼ同様力強いボディを持ったワインにすることもできる。
file No.10015: リストランテ ダ・エンツォ(Ristorante Da Enzo)
シエナは中世の町並みをそのまま今に残す、城壁に囲まれたイタリアで最も美しい都市のひとつ。
歴史的中心区域は清潔に保たれ、犬と馬の糞やゴミの山で雑然としたフィレンツェが情けなく思えてくる。
シエナはフィレンツェに対し中世の頃から対抗意識を燃やしており、最終的にメディチ家の支配下に置かれたとはいえ、今でもセネージ(シエナっ子)はフィオレンティーニには負けるものかと自意識が強い。
チェントロのすり鉢状広場「ピアッツァ・デル・カンポ」で開催される有名な競馬「パリオ」はシエナの町内対抗大運動会のノリで、セネージはサッカー以上に熱く燃え上がる。
騎手もセネージかと思ったら、身体の小さなサルデーニャ人が起用される事が多いそうだ。
そういえばサルデーニャ内陸部では馬やロバで遊ぶ子供達によく出会ったし、直線を走り抜ける競馬もあった。
file No.10016: オステリア・デル・ヴェッキオ・カステッロ(Osteria del Vecchio Castello)
モンタルチーノの丘陵をいくつも越えて、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノで有名な「カステッロ・ディ・バンフィ」の広大な畑の側道を、砂埃を立てながら走りようやくたどり着く「オステリア・デル・ヴェッキオ・カステッロ」。
辺りは一切の騒音がなく、聞こえるのは小鳥の鳴き声位で、雲の流れる音までが聞こえてきそう。
オステリア(小料理屋・ワイン食堂)といっても、「ヴェッキオ・カステッロ」(古い城)を使った高級リストランテ。
file No.10017: カステッロ・ディ・モンサント(Castello di Monsanto)
人里離れた中央トスカーナの丘陵の奥にある「カステッロ・ディ・モンサント(聖なる山の城)」。
貴重な古代エトルリア人の遺跡が発掘された地は、日当たりの良い絶好の葡萄畑がうねる様に斜面をつくる。
典型的なトスカーナ貴族の庭園は、よく手入れが行き届きとても美しい。
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file No.10019: オステリア マンジャンド・マンジャンド(Osteria Mangiando Mangiando)
グレーヴェ・イン・キャンティの中央広場、ピアッツァ・ジャコモ・マッテオッティにあるオステリア(ワイン食堂)「マンジャンド・マンジャンド」。
ウリはトスカーナの田舎料理。店の並びにあるトスカーナ優良品質の肉を取り揃える肉屋、「ファロルニ」から仕入れる「チンタ・セネーゼ種の豚肉」、「野生の猪肉」、「キアナ渓谷牛のステーキ」を供する。
チンタ・セネーゼは、「シエナベルトの豚」という意味で、肩から前脚にかけて表皮が帯状に黒く色付いていることから名付けられた。
品種改良されていない古い血統の豚で、太りすぎないよう餌をコントロールするので体格はさほど大きくなく、脂身は少なめで肉質は赤くキメが細かい。
脂も赤身もとても香り良く豚特有の臭みがなく、程よい歯ごたえで美味い。
日本のブランド豚は霜降りによる脂の旨さと柔らかさを追究するので、肉質は異なり両者の美味さは対照的で面白い。
キアナ渓谷が原産といわれているキャニーナ(キアナ)牛も、品種改良されたものでなく原種に近い古い血統だ。
チンタ・セネーゼ同様、赤身には霜降りが全くなく、噛みしめると脂っ気の無い肉汁がたっぷりあふれる。
噛み応えは結構な兵(つわもの)でこれもまた和牛とは対照的だ。
トスカーナではいたるところで「フィレンツェ風Tボーンステーキ」を供するが、この店の美味さとオーナーシェフの良心は五指に入る。
写真③は骨付きで1.5kg。7割がボクの取り分。
file No.10020: リストランテ カッフェ・コンチェルト vol.1(Ristorante Caffè Concerto vol.1)
フィレンツェのチェントロ(中心地)から、20分程アルノ川沿いを上流に歩くと、そこには観光客が溢れるチェントロとは違う、一般人のフィレンツェが現れる。
アルノ河岸には古い農家の痕跡が見られる程度で歴史的建造物は殆んど無く、案外自然に恵まれホッとする。
数十年前の高度成長期に建てられた古いアパートが多くなり、どこかイタリアの小さな田舎町を旅行しているような気持ちになる。
そんな住宅地の川辺に建つプレハブ風で高級には見えない一軒家が「カッフェ・コンチェルト」。
イタリアでは「カッフェ」という呼称を喫茶とは別に、お洒落なカクテルバーや今風(ニューヨーク風)のリストランテなどにも使う。
この店はフィレンツェでは上から数えた方が早い位の高級店だが、テーブルクロスは無くカジュアルな雰囲気の店内だ。
サービスはフィレンツェらしく、スノッブで親しみが持てないが、創作料理とワインリストはフィレンツェでもトップクラスのレヴェルと言っていい。
file No.10022: リストランテ ロ・ストレットイオ(Ristorante Lo Strettoio)
フィレンツェの中心地から、車で北西の方角に20分位行ったところにあるリストランテ、「ロ・ストレットイオ」。
シェフでオーナー夫人でもあるエリザベッタは、正統派トスカーナ料理の継承者として、本来在るべきトスカーナ料理の姿を記した著書も多数出版している。
トスカーナには世界中から多くの観光客が訪れ、歴史的建造物やメディチの芸術、美しい自然を楽しんでいる。
観光客の数だけ飲食店も必要で、当然トスカーナ料理が求められよう。しかし正統派料理人の数は追いつかず、実力層は薄くなる一方。
「店は多いが旨くない」が、トスカーナ特にフィレンツェの現状だ。
正しいトスカーナ料理が食べたければ、フィレンツェ以外で観光化が進んでいない地域を旅するか、ロ・ストレットイオのように数少なくなってしまった正しい店を探すしかない。
トスカーナ料理はよく「クチーナ・ポーヴェラ=貧しい料理」と形容される。
それはトスカーナ料理が、貧しい農家の「お袋の味」を起源にしているからだ。
とかく日本やアメリカなど外国ではトスカーナ料理を過剰に美化して商売にしているが、本当のトスカーナ料理とはそんなものではなく、「極上の美味さはないが、毎日食べても飽きが来ない健康的な日常食」と言える。
file No.10023: ポントレモーリ(Pontremoli)
北トスカーナ、ルニジャーナ地方のポントレモーリ。
山間にあるこの小さな村に来た理由は、テスタローリという名のイタリア最古と云われる生パスタの生まれ故郷を尋ねたかったからだ。
テスタローリとは数年前のイタリア旅行の際、チンクエテッレのカンティーナ・マナナンで出会った。
素朴な旨さに夢中になって食べた事を覚えている。今思えば伝統料理に目覚めたきっかけの料理だった。
聞けば、このパスタはルニジャーナ地方で作られているとの事。帰国後何度も試行錯誤を繰り返しようやく容(かたち)にはなった。
テスタローリへの探究心に呼ばれて遂にやって来た。
file No.10024: トラットリア ダ・ブッセ(Trattoria Da Busse)
ポントレモーリで、テスタローリを供する食堂、「トラットリア・ダ・ブッセ」。
4つの小部屋に分かれたダイニングは、各部屋3~6テーブルが設置され、満席で50人ほど。
建物は古いし素っ気無い店内だが、良く掃除され小ぎれいにしている。
例によってメニューは無く、口頭による説明だ。
先代の父親が創めたこの食堂を切り盛りするのは、料理を作りながら朗らかな笑顔が印象的な姉のアントニエッタと、背筋をシャキッと伸ばしキビキビとサービスする妹のイダ。
品切れも有り得るので、「今日、テスタローリ、あります?」と祈るように聞くと、サービスのイダに、「もちろん!テスタローリは我々(郷土)のスペチャリータよ!」とチャキチャキの江戸っ子姐さん風に言われ、ホッと一安心。
創意と工夫を凝らしたお洒落な料理なんて一品も無い。昔から受け継ぐ素朴な郷土料理しか供さない。でもそれでいいと思う。それが食べたくてここまでやって来たのだ。
file No.10025: カステッロ・ディ・クゥエルチェート(Castello di Querceto)
トスカーナ州、グレーヴェ・イン・キャンティのカステッロ・ディ・クエルチェート。
百数十年前にフランスから移住したフランソワ家のワイナリー。
グレーヴェの町からはずれた山深い場所にあり、静かな森の中に建つ古城だ。
洗練されたキャンティ・クラッシコをはじめ、伝統的製法のスプマンテ、サンジョヴェーゼ100%のラ・コルテ、カヴェルネ・メルローのチニャーレは有名。
file No.10026: カステッロ・ディ・ヴィッキオマッジョ(Castello di Vicchiomaggio)
グレーヴェ・イン・キャンティのワイナリー、「カステッロ・ディ・ヴィッキオマッジョ」。
高台に位置する城の一角には、中庭の重厚な扉が玄関になっているリストランテがある。
カステッロのリストランテとはいっても、大衆的な雰囲気で気楽な店だ。
高台から見るグレーヴェの山なみは美しく、綴れ織りの葡萄畑とオリーブ林が地平線まで続く。
file No.10028: サン・ミニアート 2(San Miniato vol.2)
サンミニアートのタルトゥフォ・ビアンコ祭りの期間中は、町の外れに大きな特設テントが建ち、タルトゥフォ・ビアンコ料理の食堂が開店する。
昼時ともなればタルトゥフォ・ビアンコを食べたくて集まる人々で、テント内は大混雑。
20~30分待ちは当たり前。
いざテーブルへ通されても、注文をとりに来るまで20分、さらに料理が供されるまでに20分、計1時間は待たされた。
しかし待った甲斐はあった。
「こんなテントだしこの忙しさだし」と軽く見ていたが、旨い!というか偉い!
どんなに忙しくても仕事の質を落とさず、客をここまで待たせてでも美味しい郷土の料理を供していた。
欲を言えば、もう少しタルトゥフォ・ビアンコをのせて欲しかったが、まぁ値段も安いので仕方ないか。